穏やかな春の空気。空には太陽が一つ。ぽかぽかとした陽気が辺りを包む。
見渡す限りのだだっ広い草原。あまり背の高い植物はなく、まるで緑色の絨毯のように延々と続いている。
たまにそよそよと吹く風が、草々をゆっくりと不規則に揺らす。
ほのぼのとしたのどかな風景を少女が一人、てくてくと歩く。
「――このまま昼寝でもしたら、気持ちいいだろねぇ」
なんの気なしにぽつり。少し高めなのんきな声。
やや幼さの残る顔立ちには無邪気そうな笑顔。
「じゃ、寝るか?」
別の声が応える。どことなく性格の悪そうな男の声。しかし、辺りに少女以外の人影はない。
「いやいや、お仕事もせずに寝てちゃまずいでしょ――」
言葉を途中できり、前方を見る。遥か彼方に人影。
人となりを判別することは、まず不可能な距離だろう。
「あれかな? ここからじゃさすがに見えないねぇ」
「あれだな。数は五、武器は腰に差した刀剣類のみだろう。ま、楽勝だな」
「だね。ほんじゃ、さくっとすませちゃいますか」
言うなり少女は走りだした。文字通り風のような速さで疾走。
息を乱さず、信じられない速度でみるみる人影に近づいていく。
「――で、どれが目標?」
走りながら少女が尋ねる。
「最後尾の男だろうな。武器はいるか?」
「んにゃ、今回は捕まえるだけだからそのままでいいよ」
あっという間に視認できる位置まで近づく。死角から近づいているので、連中はまだ気付いていない。
常人離れした速さで走るが足音は驚くほど静かで、風の音にまぎれて聞こえない。
男たちは無警戒に、のしのし歩いている。五人全員が上等とはいえない服装。どこから見ても盗賊かごろつきだろう。傭兵特有の緊張感もなければ、普通の村人のような健全さも皆無だ。
少女は最後尾の男に狙いを定めて、スピードを上げる。
盗賊たちの横合いから、一気に跳び込み、目標の男の首を腕で刈る。
そのまま勢いを利用し、数メートル先までかっさらう。
「――!?」
いきなりの出来事に驚くが、盗賊たちは対応できない。
「なんだ!?」
それぞれが、慌てて後ろを振り向くが、襲撃者の影は見えない。
少女は、かっさらった男を、そのまま地面に押し倒し、鳩尾に手加減した当身をくらわし、悶絶させる。
続いて、おろおろとする盗賊たちの中に飛び込み、次々と急所に当身を喰らわす。
あっという間に、残りの四人が倒れ付す。
「――ふう、いっちょあがりっと」
全員の沈黙を確認し、一息。
周囲を確認、四人は気絶(おそらく)最初に引き倒した男は、未だ苦しげに地面にうずくまっている。
男には状況が判らなかった。
いきなり衝撃を感じたと思った瞬間、地面に倒され、何者かに腹を殴られた。
(何が起きやがった!?)
全身が痺れて動かない。意識はあるようだが、身体が言う事をきかない。
視界にあるのは、地面だけ。草の匂いがする。
「――ちょっと聞きたいんだけど」
頭上からやたら能天気な声がする、少し高い。女か?